たたかえっ!憲法9条ちゃん 第二版

この前の文学フリマで入手した、サークルノンポリ天皇の芝浦慶一さんが書いたライトノベルの皮を被ったもっとおぞましい何か。
この「憲法9条ちゃん」実は初版も持っていて、前々回の文学フリマに行ったとき、最初表紙見て今はやりの擬人化を憲法九条でやっただけの本かなあと思ってそれほど興味はもたなかったんだけど、ふと見本誌をぱらぱらっと捲ってみるとその予想は大きく外れてました。
いきなり憲法九条をオナニーのオカズにしている少年なんて出てきて、それを見た瞬間これは是が非でも入手せねばとノンポリ天皇さんとこのブースにダッシュしたわけです。
そんなわけで、この第二版を入手するのも必然な訳です。

この「憲法9条ちゃん」は、とある出来事から憲法九条でしかオナニー出来なくなった少年大和マモルが、九条の書かれた石版にマモル精子がかかって生まれた少女9条ちゃん、そしてチェーンソーを背負った幼なじみ、知恵院左右(ちえいんそう)達との日々が綴られた小説です。
物語は、マモルと9条ちゃんとの出会い、憲法を変えようと運動するクラブ活動である改憲部、そしてその顧問でありマモル達の担任でもある教師、米田リカとの闘争、更には憲法九条を改憲しようとする政党、改憲党との日本国憲法を守るための戦いへと進んでいきます。
この「憲法9条ちゃん」、前述の通り主人公のマモルは憲法九条でしかオナニー出来ないは、白○だの気○いだの*1踊りまくるはそれはそれは相当ひどい小説です。しかも9条ちゃんは、生まれたばかりでまだ何も知らず、せっくすとせいしが大好きだったりもします。
という感じに殆どアヴァンギャルドというかロックというかアウトロー文学というか、まあアングラな感のある小説なんですが、困ったことにすげえ面白いんだわ、これ。
しかも、単に憲法九条でしかオナニーできない主人公とか憲法九条の擬人化とかいうネタが出オチの一発ネタではなく上手く作品全体に機能していて、こんな小説なのに面白いのですよ。
ストーリーは設定がおかしいのを除けば、主人公の元に突然女の子が現れて、その娘を中心に日常が営まれ、そしてクライマックスに巨大な陰謀と実に王道で、その王道振りを作者の筆力で上手く読ませるのです。実際テンポが良くて気持ちいい。
憲法九条も、出オチでなく作品もメインテーマに関わっていき、作者が単なる思いつきでなく、深く考えて取り入れているというのがよく分かります。特に、クライマックスにおける、憲法解釈は、九条なのに何故タイトルが『たたかえっ!憲法9条ちゃん』となっているのかというところにも結びついて非常に重いです。単に戦争放棄平和憲法が戦ったら面白いんじゃね?というギャップ受けを狙ったものではないのが素晴らしい。
しかも、今回改めて「憲法9条ちゃん」読んでみて気づいたことは、この小説、日本における人間とは何か?というところまで踏み込んでいた事だ。9条ちゃんは生まれが生まれだけに戸籍がなく、それであるが故に、作中の一部の人物からは人間扱いされない。なんつーか、人間の定義とは何なのだろうとか考えてしまった。戸籍があれば人間なのか?人格があれば人間なのか?なんとまあ哲学的な問いである。
という風に、もの凄くふざけた風に見えて、実は芯はしっかりしていて色々真面目に考えたりもついしてしまう、にもかかわらずきちんとエンターテイメントしている恐るべき小説、それが『たたかえっ!憲法9条ちゃん』です。
同人小説なので入手経路が限られてしまうのと、内容が内容だけに誰にでも勧められるものではないが難点ですが、一読の価値はあると思います。マジですげぇぜ。

ちなみに俺は九条よりも二十一条の方が好きです(笑)。

芝浦慶一短編集1

こちらはそんな芝浦慶一さんが描かれた漫画作品。こちらもこの前の文フリで入手。
表紙を見るだけでもの凄く不安になってくるこの作品は、中身もやっぱり恐ろしいです。何が一番恐ろしいかって、これを世に出そうと思った作者が恐ろしい。
何というか、読むだけで不安な心持ちになってしまいます。
もっと読み込めば、この中から深いメッセージか何かを読み込む事が出来たかもしれないけど、これ以上深淵を覗くと帰ってこれなさそうで俺には無理でした。
とはいえ、この本を二百円(だったかな)出して買ったことはこれっぽっちも後悔してないけど。そもそも同人誌なんて自分が納得してお金を出す物だし。


今後出るらしい「刑法39条ちゃん」を楽しみにしつつ筆を置こうと思います。

*1:本文中には伏せ字無し