ベルリンの壁の物語(上・下)

ベルリンの壁の物語〈上〉

ベルリンの壁の物語〈上〉

ベルリンの壁の物語〈下〉

ベルリンの壁の物語〈下〉

かなり前に購入していた本を今日やっと読破。何か最近壁があった頃の東西ベルリンについて興味を持っているのでタイトルに惹かれて購入してたのですよ。


この本は著者が、ベルリンの壁が築かれた前夜あたりから壁が崩壊した頃までの様子を、政治家や記者、そして市井の人々の声を拾ってまとめたノンフィクション。何つーかその膨大な取材から構成され、著者の筆致によって浮かび上がらせた「物語」がもの凄く興味深かった。壁が築かれるまで東西ベルリンは、東と西に分かれてはいたもののそこに住む人々は普通に日々を往来していた。それがある日東側が西側への人口流出を防ぐために突然東西ベルリンの境界線に壁を建設し、壁にまつわる数々の悲劇が生まれる事になったのである。家族や友人と離ればなれになったり、壁を越えて脱出しようとして亡くなったりとそんな出来事がこの本には綴られている。亡くなった人には名前や状況が解っている人もいれば、ただ死んだという事実があったことしか解らないような人がいて、そういう出来事がたんたんと語られている様には、改めて壁の持つ悲劇性を感じさせられた。もちろん、壁越えに成功した人達のことも丁寧に書かれているのだけど。
この本にはそういう一般市民側の記述だけでなく、壁越境を取り締まる側の立場の人間の記述もあって、こちらはこちらで様々な悩みが葛藤があって、いくら銃持って境界線を監視して冷たい印象を与える軍の人間でも、同じ人間であるという当たり前な事を改めて思い起こされたりもした。
そして、遂に壁崩壊となるわけだが、このあたりのエピソードを読んでいて心が熱くなってきたのを感じた。不覚にも涙腺緩みかけたし。いやー、何つうか、読んでいて今そこでベルリンの壁が開いたような気分になってきたのですよ、ほんとに。自由に行き来できるようになってよかったよかった。もっとも、この本でも少しだけ触れられているように、壁が崩壊して東西ドイツが統一されてめでたしめでたしなんて単純な問題じゃないことは周知の通りではあるけど。
こういうノンフィクションに対して単に面白いっていっちゃうのはちょっと書かれている実際の悲劇に対して不謹慎な物言いなのかもしれないけど、それでもやっぱり読んでる間脳内物質でまくりで知的好奇心を満たされてた訳で、そういう意味でやっぱり面白かった。
やっぱり事実から紡がれた「物語」というのは重いなあ。