青い文学シリーズ 蜘蛛の糸・地獄変

青い文学シリーズ』の最終回一時間スペシャルは、芥川龍之介の「蜘蛛の糸」と「地獄変」の二本立て。なのだけど、今回かなり大胆に変えてきたなあ。
まず、舞台をアジアンテイスト溢れるけどいつのどの時代とも分からない国に設定して、その中で「蜘蛛の糸」と「地獄変」を一つの繋がった世界としてまとめるというアクロバティックというか挑発的というか、ある意味「走れメロス」以上に思い切った事を仕掛けてきました。確かに、久保帯人の癖の強いキャラだと、普通に作ると芥川の作品を表現するのは難しいかもしれないので、こういうやり方はありかもしれない。
蜘蛛の糸」は、原作では描写されなかったカンダタの生前の悪逆非道振りがこれでもかと描写される。その強さは、正直こいつほんとに死ぬのかよと思わず危惧してしまったくらい。そんなカンダタが、自らの行いが因果となり地獄へ落とされるのだけど、死ぬ直前まで大胆不敵だったカンダタが、地獄では泣き崩れるという衝撃的なギャップは地獄の恐ろしさを見せつけ、救いであった蜘蛛の糸に浅ましくもすがる姿をより際だたせていた。カンダタの生前の描写をしたことは賛否あるかもしれないけど、元々短い作品を映像化したことを考えたら結構ありだった。
地獄変」は、「蜘蛛の糸」と同じ国で、良秀が絵を描くという話になったのだけど、良秀のキャラクターを変えすぎていた嫌いがある。原作「地獄変」における良秀はもともと変わり者で最初から絵に取り憑かれていた狂信者の体を成していたのに対して、この良秀は、結構最初はまともで傍若無人に振る舞う国王の治めるこの国を憂いたりしている。国王(大殿様)によって良秀の娘が焼かれそれをみて取り憑かれた様に絵を描くのは同一だが、それまでが違いすぎてこれは「地獄変」ではないような気がした。国王が傍若無人で良秀がまともな精神を持っているのはちょっと違うよなあ。もちろん、アニメ化において何かを変える事は構わないし、大胆なアレンジもどんと来いなんだけど、それでもどこか変えちゃいけない部分もあるんじゃないかとか思ったり。もっとも、単純にアニメとしてみれば、圧倒的なクオリティで描かれたこの話は面白かったんだけど。「地獄変」にインスパイアされた二次創作作品と考えれば結構ありだ。そもそも「地獄変」自体古典にインスパイアされたものであるし。
つーか、娘が炎で焼かれるシーンが凄い。たまたま観ていた子供が変な性癖に目覚めてしまわないか心配になるくらいに。
そして、その娘が焼かれているところを見ながら地獄の絵を描く良秀の絵に対する情念の炎に焼かれて、安全に見物するはずだった国王が焼け死ぬシーンは圧巻だった。ある意味、地獄をよく描写したと思うよ。
あ、そうか今気がついた。「地獄変」を映像化するってことは、良秀が描こうとした地獄と真っ向から向き合わなければいけないのか。文字による小説とは違って。
そう考えると、今回のアニメ化って大変なものだったんだなあ。個人的には「蜘蛛の糸」「地獄変」を通して地獄を描くっていう試みは結構成功していると思う。カンダタの苦しみと良秀の描く怨嗟の炎、その二つが高い描写力によって目に焼き付いたし。

ま、何だかんでいって今回も結構楽しめました。またやってくれないかなあ、『青い文学シリーズ』。こういうオムニバス作品は結構貴重だしね。